2009年のベスト (2/2)

ということで,ほぼ1年遅れで登場した2009年のベスト,後半です。
 



 
[印刷物部門]
 
 相変わらず続く新書ブームですが,単価が安いのはありがたいものの,どうも粗製乱造の感がますます強くなってるような気がしてます。 そのせいなのか,個人的にわりと忙しい年だったせいで自分自身の感度が鈍っていたのか,はたまた引きが弱くてハズレくじばかり続けて引いちゃったのか,それはよく分かりませんが,総合的に見て,去年はいつもよりもグッと来る本が少なかったな……と思います。 そんな中,楽しんだのは,どちらかというと去年の作品ではないものだったりしました。

魔女とキリスト教(上山 安敏,講談社学術文庫)
Majo 魔女裁判については,怖いもの見たさ的な関心がありつつも,断片的な記事を目にするばかりで,まとまった形の本に接することがありませんでした。 その意味では,ようやくちゃんと読んだ本……という感じではあります。 高校で世界史をやらずに済んでしまった世代であることも手伝って予備知識が圧倒的に乏しいため,理解できない内容や言葉が多々あったんですが,その点を差し引いても面白い内容でした。

ほんとうの「食の安全」を考える−ゼロリスクという幻想(畝山 智香子,DOJIN選書)
Uneyama 「魔女とキリスト教」はかなり前の出版ですが,去年出た本に限れば,やはりこれでしょう。 去年はこのBLOGでも畝山さんの文章をたくさん紹介していたように思いますが,本も……ということになりますね。
 大学の授業の副読本的なイメージの本で,頭文字を使った略語がバンバン出てきたりします。 そのため,はじめは(僕も含め)初学者にはちょっととっつきにくい印象になってしまい,一般向けの本として見ると損をする結果になっているかな?と思わないでもないです。しかし,内容的にはとても面白いです。 例えば,なんとなく漠然としたイメージで,農薬=危険,無農薬=安全,有機農業=なんかすごく良いもの……みたいに思っている人には,ぜひ読んで欲しい1冊です。 そういった単純な(しかし決して正しいとはいえない)意識に根本的な問いを投げかけてくれます。 しかも分かりやすい例とともに。 こういうのこそ,もっと広く読まれて欲しいんですが。 ……せめて,僕がここで採り上げたことによって「ケッ,アイツの薦める本なんて,どうせ鬱陶しいものだぜ」というような先入観を持たれないことを願います。


[映画部門]
 
チェンジリング
Changeling いわずもがなのヒット作ですね。 基になっているゴードン・ノースコット事件(Wineville Chicken Coop Murders)がとにかく後味悪いものだったりするわけですが,映画のほうは,後味が悪くならないように気を配った展開になっていました。 若干脚色もあり,実話よりも多少シンプルな構成にしてあったようでもあります。 とはいえ,ジワジワと追い詰められるかのような不気味な緊迫感は,ホントに素晴らしいものでした。 奇抜な映像でびっくりさせるタイプの作品ではないことも良かったし,その分ビデオで観ても楽しめるように思えるので,まだ見てないかたにはオススメです。
 映画を観たかたには,もとの事件について Wikipedia に記事があるので,紹介しときます(なお,英語版の記事は日本語版とは微妙に異なる記述が見られます。 映画が好評だったこともあってか,その後いろいろアップデートされてるようで,日本語版の記事は以前見たときの英語版記事の内容に近いです。 現在の英語版記事のほうが内容充実かつ冷静な記述ぶりで,より客観的な事実に近づきたい向きにはこちらのほうがオススメと思います)。 ただし,映画未見のかたは Wikipedia を参照するとネタばれするので,その前にまず映画を観ることをオススメします。

 
ザ・ムーン
In_the_shadow_of_the_moon 僕がこれを挙げないでどうする!?と思ったので挙げときます。 アポロ11号月面着陸40周年ということで,去年はアポロがらみのイベントなどいろいろありましたね。 同様の映画では,BBC系の「宇宙へ。」もありましたが,「ザ・ムーン」のほうが数段よかったと思います。 「宇宙へ。」のほうはアメリカの宇宙計画全体をざっくり俯瞰するような構成になっていたせいか,ちょっと食い足りない印象でした。 「ザ・ムーン」はアポロ計画周辺に限定していたというのもありますが,それよりもなによりも,やはりクルーたちの証言の素晴らしさを中心に据えたことが勝因のように思います。 40年前のものにしては映像も凄くて,「へ〜〜,こんな映像があったんだ!」みたいに思うシーンも多々ありました。

 
アンヴィル!
Anvil 2009年の音楽映画としては,"THIS IS IT" よりも断然これでしょう! 2008年の「ヤング@ハート」に続いて,音楽を扱ったドキュメンタリー映画に見事にヤラれました。 メタル好きでなくても必見です(現に,僕は特にメタル好きではないし)。 アンヴィルのメンバーたちの証言はもちろんのこと,それを取り巻く家族たちの意見も,(賛成のものでも反対のものでも)うなずけないものはないという感じで,見事に最後まで持っていかれちゃいました。 映画で観る“男の生きざま”という意味では「レスラー」も良かったけど,個人的には,「レスラー」は痛みが強く感じられすぎて観ていてツラすぎました。 なので,僕としては「アンヴィル!」のほうを挙げときたいと思います。

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2008年のベスト(1/2)

 遅ればせながら,あけましておめでとうございます。
 
 振り返るタイミングが遅いっていう話もありますが(^^;,どうにもこうにも怒涛のように過ぎた2008年でした。 その影響か,ここに書いた記事も少なかったですね。 更新のモチベーションを上げる何かを自分の中に作らないと……などと思いつつ,みなさまの感想などお待ちしています……なんてことも書いてしまうのだった。(^^;;
 
 ということで,またしても年を越してしまいましたが,とりあえず書きます「2008年のベスト」。 今回も2回に分けて去年出会った「良かったもの」たちをご紹介です。 まずは,前半戦ということで,印刷物部門と(珍しいことに)映画部門です。
 
 
[印刷物部門]
 まずは印刷物部門です。 2007年のベストを書いたときは,2008年はもっと本を読もうなどと思っていたのに,フタを開けたら,むしろ読書量が落ちてしまったのでした。 ……う〜〜む。
 
文明崩壊(上) 滅亡と存続の命運を分けるもの (Jared Diamond,草思社)
Collapse 実は,これ,まだ下巻を読了してないんですが,このままだと 2008年にも 2009年にも含まれなくなりそうなので,挙げときます。
 過去において失われた幾つかの文明について,その理由を環境との相互作用の観点を重視しながら解説,そこから我々の文明のとるべき道を探ろうというものですが,上巻で紹介される,歴史上のさまざまな文明の崩壊のさまが,なんとも言えない感慨を呼び起こします。 なにしろ上下巻の分厚い本で,僕は現在,下巻の半ばなので下巻についてのコメントは控えますが,とりあえず,上巻はオススメです。

アフリカ 〜苦悩する大陸〜 (Robert Guest,東洋経済新報社)
Shackled Continent これまであまりに無関心だったせいもあってか,アフリカの状況について先入観すら形成されてない状態だったので,この本に大きなショックを受けるというところまではいきませんでした。 しかし,アフリカの種々の問題がはらむ難しさを,これでもかと指摘され,その厳しい現実の前に言葉をなくします。
 アフリカへの援助ということを,有名人がキャンプを訪問してかわいそうな子供を抱きしめてあげたりすることだと思ってる人(←そんな人,あんまりいないと思いますが),そうでなくても,日本は大金を援助に供出しているからそれでOKと思ってる人,それから,僕のようにあまりに何も知らない人,……みな,一読の価値があるのではないかと思います。
 それから,「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」のこの記事あたりで知った「アフリカ・レポート (松本 仁一,岩波新書)」も,比較的近い趣旨ではありますが,コンパクトで読みやすく,こちらもいい本だと思いました。 ……もっとも,終盤,読者に希望を与えておいて,最後にまたキツイ現実をつきつけるという展開には参りましたが。


 
[映画部門]
 本は読まなかったけど,なぜか今年は例年よりもたくさん映画を観たような気がします。 といっても,その「例年」ってヤツが「ほとんど観ないに等しい」ってな調子なので,絶対数では全然たくさんじゃないんですが。
 
ヤング@ハート
YOUNG@HEART それにしても,どうにも偏ってることに,観た映画のかなりの割合をドキュメンタリーが占めていたりします。 で,ベストは,やはりこれかな?というわけです。
 いやー,実際これには参りました。 ネット上で誰かが「これはズルイ。 こんな題材を撮ったら面白くならないわけがない」みたいなことを書いてましたが,確かに,どうあがいても(って,別にあがいてはいないが)感動せずにはいられない映画でした。 (僕も含め)多くの人が感動し,なおかつ幸せな気分で映画館を後にしたのではないかと思います。
 個人的には,映画の大枠(コンサートの準備開始から当日までの紆余曲折を追いかけたドキュメンタリーです)ももちろんですが,随所で出てくるパフォーマンスの素晴らしさにもヤられました。 彼ら・彼女らが歌う,そのことによって,有名なあれこれの曲に,企まずして全く新しい解釈が吹き込まれている……ということに,ガッチリ心をわしづかみにされてしまったのでした。

敵こそ、我が友 〜戦犯クラウス・バルビーの3つの人生〜
Klaus Barbie エラそうに言ってしまえば,これは秀逸なドキュメンタリーでした。 本来なら戦犯として裁かれてジ・エンドだったはずが,戦時・戦後の国際関係の波に呑み込まれ,というか,結果的にはその波に乗ることによって生き残ることが出来た1人の人間の数奇な生涯を追った作品ですが,僕も含め恐らくほとんどの人が,主役であるクラウス・バルビーに決して好感をもてないでしょう。 しかし,彼を利用しようとする国際政治の思惑が,結果的には彼を救うことになります。 観終わって,なんとも言えない苦い後味。 でもそれが現実なのだ,ということがまたズッシリとのしかかってきます。

(次点) 僕らのミライへ逆回転
 これはドキュメンタリーじゃなくて普通の映画です。 以前,町山智浩さんが BLOG で紹介していたので気になっていて,日本公開されたということで観にいきました。
 この邦題はどうかと思いますが,中身のほうはなかなか良いものでした。 ドタバタコメディそのものの前半から,最後にはジ〜〜〜ンとさせる……と書くと,喜劇の王道みたいな展開ではありますが,その「ジ〜〜〜ン」が,僕達が何かを作ったり表現したりする,その根っこの部分に想いを馳せずにいられないものだったりして,そこに見事にヤラれてしまいました。

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夕凪の街 桜の国

Yunagi 遅ればせながら,上映中の「夕凪の街 桜の国」を観てきました。
 
 もちろん,原作の素晴しさを愛するひとりとして,原作との対比において言いたいこともあるんですが,細かいこと(と敢えて言ってしまいますが)をいう前に,まずは,「観るべき映画」と言っておきたいと思います。
 もう上映期間も終盤で,一部の映画館で朝イチ1回の上映があるだけというような状況ですが,とりあえず,まだの人は,だまされたと思って観に行ってはいかがでしょうか。
 
 観に行けない人は(というか,観に行く/行った人も),原作をぜひ。

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