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人柱@ "AJA" SACD版

ということで,今回はかなりマニアックな話題です。
 
Aja_2 ちょっと前の話ですが,Steely Dan の代表作と一般に言われている(個人的には "THE ROYAL SCAM" 以降の3作はどれも甲乙つけがたいんですが) "AJA" が日本側の特別企画で SACD化されました。 で,何の迷いか勢いか,Incognitoの新譜と一緒にポチッとな してしまったのでした。
 
 おそらく,このSACDに関しては気になっている人も多いでしょう。 気になりつつも,あまりの値段設定に(¥4,500はいくらなんでも……。 よほどのファンか,僕のように一時の気の迷いでもないかぎり,なかなか購入には踏み切れないと思います)様子見している人も多いでしょう。 そこで,にわかに人柱と化した僕がレポートしようと思います。
 
 まず,今回のSACD化のポイントの1つは,日本側のアナログマスターを使用して日本側でリマスターしたということで,

  • 本国のオリジナルマスター使用ではない点
  • Steely Dan本人たちの関与がない点
あたりを気にしている人もいるのではないかと思います。 しかし,これらはある意味,気にしてもしょうがない部分なのでしょう。 2000年の "Remastered by the artist" 版が出た時点で,既に本人たちのコメントから "Black Cow" と"Aja" の2曲のオリジナルマスターテープが紛失していることが明かされているわけで,日本側アナログマスターが一概に悪いとは言い切れないです。 また,RHINOやMoFiといった再発メーカーの仕事ぶりを見れば,アーティスト本人が関与していなくても良い結果が出る場合も十分あると言えます。 とまあ,買うなら,そこらへんはひとまず納得ずくで買うべきでしょう。
 
 装丁は限定版紙ジャケットなんですが,……ハッキリ言って,どこにディスクが入っているのか分からん! もとの LPもダブルジャケットでしたが,このSACD版はもっと複雑になっていて,LP版に忠実と言うわけでもないし,内側の復刻は省略されてるし,いったい何をしたかったのかワケが分かりません。 そりゃまあ,普通のプラケースにしたからといって急に¥2,000円になったりはしないんでしょうが,こんなところに凝るよりはちょっとでも安くしたほうが……と嫌味の1つも言いたくなってしまいます。 とはいえ,この辺は枝葉末節なので,すごく気になったりはしませんが。
 
 で,盤をようやく探し出して,再生です。 なお,僕のオーディオ機器は学生時代にバイトして買ったものがメインで,決して最新のものではありません(というか,かなりの年代モノです)。 ただし,SACDプレーヤーは DENONの比較的新しい機種です。SACDというと,一般には「より繊細感が増す」というような感じで語られることが多いようですが,僕のセットで再生すると,むしろ骨太感が増すような感じがする場合が多いです。 繊細感ではなく,音の存在感・実在感が増す方向というか……。 それから,住環境が貧弱なので大音量での再生は不可で,LOUDNESSスイッチ常時ONみたいな状態にしないとまともなバランスでは聴けません。 以下の感想は,こういう再生環境で僕が聴いた,全く個人的な感想であることを割り引いて読んでください。
 
 一聴してすぐに分かるのは中低域が強く分厚い音ということです。 高域側はやや抑え気味で,わりとハイハットが引っ込んでいる曲が多いです(昔のLPって,そんな感じでしたね)。ただし, 時々シンバルの音がかなりリアルな場面がありますから,全面的に高域側が落とされているわけではないようです。 Rick Marotta が自慢げに語っている有名な "Peg" でのハイハットワークなんかも,かなり見事にきこえます。 解説でもスネアやベースの沈み込みが深くなっていることが述べられていますが,確かに,ズシッとくる中低域はこれまでの CD版とは全く違う手応えで,重心がグッと低くなったリズムセクション(特に,やはりベースとスネア)はとても魅力的です。
 全体に残響の少ない,ドライかつ生々しい音で,それぞれの楽器の音に厚みがあります。 定位もさすがに悪くないけど,ピンポイントと言うよりももう少し分厚い定位感というところでしょうか。 2000年のリマスター版CDと比べると,中低域の実在感・厚みはSACD版の圧勝でしょう。 Donald Fagen の声も,より前に出てくる感じがします。
 
 しかし,その一方で,音のシャープさ・キレといった面では,疑問符が付きます。 ちょっとモッサリした音とでも言うのか,ギターのカッティングなどのシャキッとした感じやアタック感は薄まっているし,シンセなんかのスピーディな音はちょっとキビシイように思いました。 表題曲のハイライトシーンである Wayne Shorter の sax と Steve Gadd のドラムが交錯する場面も分離がいまひとつで,CD版に慣れた耳にはもうひとつ盛り上がりきれないのも残念。 また,これは人によって意見が分かれるところでしょうが,音楽全体を通した微妙なバランスという点で,2000年リマスター版の方が優れているようにも思えます。 ハイハットが抑えられている中で急にシンバルの高音が前面に出てきたりしてちょっと違和感を持つ場面があったり,ドライすぎてもう少し残響感が欲しくなったりもします。 濃厚なぶん,開放感は抑え気味 ……もっとも,この辺は高級オーディオでちゃんとした音量で聴くと違うのかもしれませんが。
 と言って,じゃあ大して良くないのかというと,これがさにあらず。 これを聴いた後,試しに2000年リマスター版CDに切り替えると,各楽器の音が急に細くなったと感じられて,物足りない気分にさせられたりします。
 
 というわけで,なんだか悩ましいヤツが登場したという感じですね。 とにかく,良し悪しを抜きにして,2000年リマスター版とは別モノの音です。 総合的にはアナログディスク的な音という感じで,特徴を一言で言うなら,記憶の中のLP版の音のイメージに近い……と言えるでしょう。 LPの音が刷り込まれていて,それ以外の音だと「違う」と感じてしまう人とか(←これは良し悪しの問題ではないです。 好みと言うのはそういうものでしょう。 …念のため),とにかく中低域の充実感重視というかたには,今回のSACDは試す価値大です。 しかし,上で書いたとおり,2000年リマスター版のほうが優れている面も多々あるように思います。 僕個人としては,各楽器の厚み・低域側の素晴らしさに心惹かれつつも,トータルでは 2000年リマスター版の(トータルの音楽表現としての)バランスの良さに軍配を上げる……かな(←なにしろ別物なので,結構難しい選択なのです)。 2000年リマスター >(僅差で)今回のSACD >>(越えられない壁)>> それ以前の通常版CD という感じでしょうか。 特に,初めて "AJA" を聴く人は,2000年リマスターを聴くほうがいいように思います。 このSACDはあくまでその魅力を知っているマニア用という気がします(まあ,値段もマニア用ですから,その意味では合っているわけですね)。
 
 
 ということで,人柱報告でした。 まとめると,試す価値はあるけれど過度な期待は禁物,というところでしょうか。 僕自身はそれほど後悔してませんが,とはいえ,勢いのついてない状態で冷静に「¥4,500払うか?」と問いかけられたら考え込んじゃう(というか,買わないかな?)と思います。(^^;
 
 ……そうそう,SACDはほとんどの場合CDとのハイブリッド盤ですが,今回のは SACD信号のみ,CDのシグナルは入ってません。 SACD再生環境が必須です……念のため。

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