2007年のベスト [1/2: 紙編]
ということで,今年もやることにしました,この1年のベスト。 今年は年を越す前にやるぞ!ってことで早々と(当社比)開始です。 各部門,これ以降に出会った作品は来年扱いということで。 もちろん,僕にとっての今年のベストなので,例によって今年出たわけじゃないものも含まれます。
で,今年も2回に分けて書く予定です。 第1回は紙媒体(印刷物部門)。
[印刷物部門]
◎ あなたの人生の物語
「なにをいまさら……」という人も大勢いるでしょう。 はい,いまさらです(←開き直り)。 テッド・チャンの,この時点での全作品を収めた短篇/中篇集。 翻訳が出たのは 2003年の後半なので,もう4年前ということになります。
数々の賞を受賞している作品ですが,そうした高い評価を知りながら今の今まで読まなかった,ということを,これほど恥じたことはありません。 冒頭の「バビロンの塔」のファンタスティックな描写と展開に心地よく驚愕し,さらに,表題作を読み終えたときには,あふれ出る感動を抑えることが出来ませんでした(早い話が,すっかり号泣モード(^^;)。
去年あたりから,ノンフィクションや評論みたいなのばかり読むようになっていたんですが,これを読んで久々に小説というものの良さに目覚め,その後はフィクション/ノンフィクション併せて読むようになったのでした。 その意味でも,僕にとって今年のエポックになった本と言えます。 もしまだ読んでない方がいたら,ぜひどうぞ。
○ 生物と無生物のあいだ
折からの新書ブームのせいで粗製乱造ぎみになったのかどうかは分かりませんが,どうも僕が今年読んだ新書は中身の薄いものが多かったように思います(まあ,たまたま引きが悪かったのかも知れませんが)。 ……そんな中,ひときわ充実した気分を味わったのがこれでした。 著者の実体験を織り交ぜながら,20世紀から今日までの生物学(特にミクロなレベル,つまりは「バイオ」という言葉から想像されるような方向の生物学)の発展を追いかけているんですが,なんといっても語り口が素晴らしく,グイグイ読まされてしまいます。
科学に興味はあるけど,どうも日本の科学者の書く本は読みにくい&分かりにくい印象を持っていると言う人がもしいたら(←昔の僕が,まさにそうでした),「そんなことはないぜ。 そういうことはこれを読んでから言ってくれ!」と言い返したい。
(追記 [2009/01/11]
「2008年のベスト」を書いていて思い出したんですが,ネット上の幾つかの記事を読む限り,この著者の福岡伸一さん,どうも,あちこちでヤバげな(と僕には思えるような)発言もしているみたいですね。 確かに,この本でも,読みながらちょっと気になりつつもスルーしたところも幾つかあったような気がします。
まあ,そういうことがあるにせよ,この本がいい本だという僕の評価じたいに変化はありません。 ただし,(とりあえず)その評価はこの本限定ということにしておきたいと思います。)
(次点)自分の体で実験したい−命がけの科学者列伝(レスリー・デンディ+メル・ボーリング,紀伊國屋書店)
予想以上に楽しい本でした。
「自分の体で実験したい」という題名からは,なにか「楽しさひとり占め」みたいなエゴイスティックな雰囲気が感じられないでもありませんが,原題は "Guinea Pig Scientists" (直訳するなら「モルモット科学者たち」ってなところか)で,ちょっとだけ趣が違います。
自分の体で実験した科学史上のいくつかのエピソードが収められており,確かに「自分の体で実験する楽しさ」みたいなものを感じさせる話もありますが,その一方で,(「実験台」という言葉から当然予想される)医学系のエピソードなどでは,他人の命を危険にさらすわけにはいかないという判断や,あるいは,より冷静に,その実験の持つ危険な要素・実験で観察すべき点などを最もよくわかっている自分が実験台として一番ふさわしいという判断で「自分を使った実験」に挑む様子が描かれています。 そして,それらの中には悲しい結末を迎えた話もあり,心揺さぶられます。
僕自身の経験でも,学生時代の実験で危険な場所(←あくまで可能性としての危険ですが)に踏み込む必要があるとき,そういう場面だけは先生たちが買って出ていました。 普段は学生を労働部隊みたいな感じで使っていても,です。 僕の経験をただちに一般化は出来ませんが,やはりそういうものだろうと思ったりします。
(次点)現代の貧困(岩田正美,ちくま新書)
右を向いても左を向いても,「格差」とか「ワーキング・プア」などの言葉がやたらと飛び交った1年でしたが,この本は,そういう言葉たちの背後にある通奏音とも言うべき「貧困」の問題について,基本的な知見を示してくれる本と言えるでしょう。 データに基づいて話を進めるので,決して読みやすいとは言えませんが(あ,もちろん難しい本というわけではないです,新書だし),その分,このところの格差論なんかにありがちな感情的な記述に陥ることなく,歴史や現状を静かに把握させてくれます。 この手の問題に不案内な僕にはかなり意外な数字もあったりして,「う〜〜ん」と思わされたりしました。
データ分析を離れた議論になると,必ずしも説得的ではないように思えたので次点にしましたが,エモーショナルな格差論議に絡め取られる前に,ベースとなる知識を得る……という意味で読んでおくといい本かも知れません。


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